洒落にならない怖い話
広戸風
岡山県の県北には「広戸風」(ひろどかぜ)という局地的な暴風が起こる。


これは奈義山からの吹きおろしで台風の時は必ず被害があるため、台風になると古い家は板戸を補強したり牛舎の戸を釘で打ちつけたりするのが恒例行事だ。


うちの地方では広戸風の吹く日は外に出たら「持って行かれる」という言い伝えがある。


広戸風の被害は時として甚大で、屋根ごと飛ばされる家もでるくらいだから、ある種当然ともいえる言い伝えではあるが、これには実はいくつかの民話が残っている。


何種類かあるようだが、まとめるとこんなお話。


毎年夏になると台風の時期、広戸風にそなえて各家々は屋根の補強に忙しくなるが、その村のお袖という女性の家はそういう訳にもいかなかった。


夫が岡山の方(県南の中心部)へ出稼ぎに取られていたために男手が不足していた事もあったが、生まれたばかりの赤ん坊の世話も焼かなければならなかったからだ。


彼女は集落の中でも働き者で豪胆な性格だったので、少しずつではあるが一人で家の補強をしながら日々仕事もこなしていた。
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