蝉女
 もしやミー子はどこぞのお嬢様なのだろうか。箱入り娘として育ったが世間を知るために家出してきたとか、そんなところだろうか。
 俺は彼女と一緒にいて本当に大丈夫なのかと先程とは違う理由で不安になってきた。
「親御さん心配してない? 今頃ふたりともパニックなんじゃない?」
 恐る恐る尋ねる俺に、ミー子は首を横に振る。
「家族はいません。父と母は行きずりの恋で、母はわたくしを産んでしばらくしてから亡くなりました」
 とても自然な口調で、ミー子は言った。
 そういえば玄関先で「行くところなどない」と漏らしていた。なんだか複雑な家庭状況のようだ。それ以上なにも聞けなくなる。
 黙り込んだふたりの間を埋めるようにチャーシュー麺が運ばれてきた。
 白い湯気の漂うそれを興味津々といった様子でミー子が見つめる。
「これはなんですか?」
「ラーメン……って、え、食べたことないの?」
「初めてです」
 やはりミー子は箱入りお嬢様なのかもしれない。
 割り箸を手渡す。まじまじと割り箸を見つめたまま動こうとしないミー子をよそに、俺は箸を割ってラーメンを啜り始めた。
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