不思議の国のお伽噺。


『…ダイナさん』



『ダ、イナ』



『…チェシャ猫が泣かせたのかい?』



ダイナと呼ばれる、オレンジの髪の青年は、目を細め、チェシャ猫を咎めるように見つめる。
オレンジの耳と尻尾を揺らす。緑の目がどんどん攻撃的になっていく。
チェシャ猫は、唇を噛みしめ、下を向いた。



『チェシャ猫のせいじゃっ…ないっ、よ』



オサナイワタシは泣きじゃくる。
ダイナさんは、私を優しく抱き締めた。


そして少し体を離し、私を見て微笑む。


妖しく、美しく、残酷に。




『猫をかばう必要なんてないんだよ



アリスは苦しければ苦しい、人のせいなら人のせい


はっきり言って良いんだ。


例え人に罪を擦り付ける形になっても』



ダイナさんは、私に何を求めているのかな。


私は、チェシャ猫のせいではないと、首を振り続けた。






そのとき、私の中に突然、走馬灯のようなものが走っていく。








すべて、ダイナさんのもの…






私が生まれたときからそばにいた、従者…兄のような存在。


それを伝えれば、ダイナは嬉しそうに笑ったけど、いつも言っていた。


『僕は飼い猫で充分だ』、と。


不意に、昔言われたのダイナの言葉が頭をよぎる。






『僕は生まれたときからアリスの従者』


『猫は主人の情報、生まれてからの環境を理解するため、主人より早く生まれる。


そして、主人が寂しくないよう寄り添って、そばにいて、最後は共に逝く。


それが従者の僕、猫の使命』

『最初は苦しかったよ。
だって、従者の猫は未来が見えるから。
それは先代からの力。
ずっと受け継いできた能力。

でも、未来の内容を誰にも伝えてはいけないし。

今は、三日後や一週間後の記憶しか見えないけど、いつかは自分の死ぬ日もすべて見える日が来る。

その日まで怯えて暮らしてたのは昔の僕。



…でも今は、









アリスの近くに入れることが幸せだ。』











< 73 / 159 >

この作品をシェア

pagetop