ク ロ
そんな環境の下で過ごしてきた私なので、猫とはすぐ身近にありながら越えられない壁の向こう側にいる生き物だった。
もし一度でも、愛くるしい子猫を膝の上で眠らせるような体験をしていれば、こんなに猫への嫌悪感を持たずに済んだかもしれない。
だが、私にはその機会がなかった。
件の愛猫家は、【子供イコール猫に悪さをする悪魔】という揺るぎない信念を持っていたようで、私はその家の前を通るだけで睨みつけられたものだ。
以来、猫族とは分かり合えぬ間柄のまま今日に至っている。
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