傷恋(キズコイ)

いきなり、強い力で壁にぶつかるように押し付けられた。

「痛っ…！」

「確かにそれは正論です。でもそれじゃ……人の痛みがわからないじゃないですか」

口調は変わらず穏やかだけれど、その目は鋭く、反論を許さないと言っている。

「…虚しいね」

「お喋りなその口はどうすれば閉じるんでしょうね？」

先生の親指が私の唇をなぞり、思わず息を飲む。

「もう…止めようよ…。結衣を傷つけて、征也さんを傷つけて…先生は満足なの？」

「…満足ですよ。そして君を傷つけるのも平気です」

顎を掴まれ上を向かされたと同時に先生の唇が私の唇を塞ぐ。

大好きな先生とのキス。
いつか、想いが叶って…なんて空想した事もある。

だけど、こんなのは違う。

先生は私に何の感情も持ってない。
余計な事ばかり言う私をただ封じたいだけ。




先生の唇が離れた時、涙が頬を伝った。

「泣くほど嫌でしたか？」

嫌で泣いてるんじゃない。
ただひたすら悲しいだけ。