傷恋(キズコイ)
「私が逃げたら、先生はきっとまた誰かを傷つける」

どうしてこんなにキレイごとばかり口にするのか。

「素晴らしい自己犠牲の精神ですね」

「違うよ…。もう先生に傷ついてほしくないから…だから…」

彼女は僕を憐れんでいるのか?
何もわかってないくせに。
僕を知らないくせに。


「君といるとイライラします」

僕と向かい合っていた顔がふいに逸らされた。

「もし、僕を救おうなんて考えてるなら身の程知らずですね。君に僕を救うのは無理です」

両手で頬を掴むと強引に自分に向けた。

「それに誰かに救ってもらいたいなんて思ってもいない。大きなお世話なんですよ」

何か言いたげに僅かに唇が開いたけど、彼女は結局何も言わなかった。

「君が出来る事と言ったら…僕の性欲の捌け口ぐらいですね」

早くギブアップして、僕を押し退けてここを出て行くといい。

逃げ出したからといって君を責めたりしない。

ただもう僕に関わらないで。

君といると僕は苦しくなってしまうから。
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