傷恋(キズコイ)
穏やかに話す榊にだんだんと落ち着きを取り戻した僕は、長年の彼への不快感が顔を出し始めた。

彼が神崎さんの事を愛しそうに話すのがますます僕の嫌悪感を誘う。

だからつい、彩について語ってしまった僕に榊の表情が微妙に変化した。

「そんな彩をフッて婚約したのがあいつだからってのが気に食わないのか?」

いよいよ本題だ。

榊は知ってる。
僕が神崎さんに何をしたのか。

「…何の話だい…?」

とぼける僕に彼は大きくため息をついた。

「俺のオンナにずいぶんな事しでかしてくれたな。あいつは正直に全部話してくれたよ」

神崎さんは榊に話したのか。
彼女のためにここまで来た彼にも驚いたが、彼女が正直に話した事にも驚いた。

彩をあんなにもあっさりフッたくせに、神崎さんの事になるとここまで真剣になる榊に、薄れかけていた彩のあの日の涙が脳裏に浮かんだ。

入学式の日に偶然見てしまった榊と神崎さん。

あの時も今と同じ感情を覚えたんだ。

だから…僕は彩の代わりに…。
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