ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~




真剣な面差し。

直線状の視線が…あたしに降り注ぐ。


な、何だろう、この状況。


得体の知れない焦りが胸に生まれ、それを消すように暴れたあたしの両腕は、頭上でクロスした形で、櫂の片手で容易く縫い止められて。



「……せ、りか」



威圧とは違う…まるで乞うような、弱々しい響き。


濡れた漆黒の瞳が絡みつく。


逸らし切れない――

熱くぎらつく……灼熱の視線。


じりじりと胸を焦げ付かす…それは痛いくらいで。


声が……出ない。


どくっどくっどくっ。


心臓が、激しく波打つ。


ありえない。

感じていけない鼓動の早さ。


次第に苦しげに乱れる呼吸は――


あたしのものなのか。

それとも、櫂のものなのか。
 
 

櫂から目を離せられない。


 

「芹霞、俺は……」


 
微かに震える玲瓏な声。


憂いの含んだ、熱く揺れる切れ長の目。


間近に見る端正な顔は、

苦しげに歪められていく。


美しい器が…乱れ、壊れていきそう。



本当に苦しそうで。

本当に泣き出しそうで。




――芹霞ちゃあああん。



僅かに傾く端正な顔。


ゆっくり近づく、漆黒の瞳。

熱い吐息が…顔にかかっていく。



あたしの視界が、漆黒色に染まっていく。

どこまでも冥い闇色に染まっていく。
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