ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~



――僕も芹霞ちゃんがだあい好き。



結局、そう笑顔を見せるしか俺には出来なくて。

言葉に…表現しきれなかったんだ。



想う心が、あまりにも大きすぎて。



――あたし達は"運命"だよ?

――"永遠の約束"だからね?


俺には意味が判らなかった。

だけど、俺だけに向けられた、特別なものだとは認識していた。


いつか見たテレビのCM。

それは宝飾会社の…結婚指輪のものだった。


"運命の相手に"


そうしたナレーションに乗って、

花婿が花嫁の指に指輪を嵌めていた。


そして最後に大きく出たのは、


"永遠の約束"


漢字が判らない俺は、芹霞の母親に聞いた。


エイエンノヤクソク。

それは…

ウンメイノアイテニスルモノ。


それは芹霞の言葉に悉(ことごと)く当てはまった。


ぞくぞくする甘美な言葉だった。


何て特別な響きなんだろう。


芹霞は俺だけに言ったんだ。

俺だけに約束したんだ。


それはもう、痺れるほどの快感だったんだ。


永遠の運命の相手に贈るのが指輪だと思った俺は、即日、縁日の出店で売っていた硝子の指輪を、なけなしの小遣いで買って贈った。


CMには"愛の言葉"もとあったから、覚えたての平仮名で、鉛筆で書いては消して、便箋をぼろぼろにさせつつも…初めて書いた"ラブレター"というものも添えたんだ。


――ありがとう、櫂。



芹霞は…もう覚えていないかもしれないけれど、俺は…あの時の、はにかむような芹霞の笑顔は一生忘れないと思う。


惰弱な俺が、初めて自分の意思で、芹霞の手を借りずしてやりぬいた。

"男"としての達成感だけが胸に湧いて。


あの時の俺には、

それが精一杯の愛の表明だったんだ。

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