ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「俺、何なわけ?」
緋狭姉は答えない。
「8年前。緋狭姉は制裁者(アリス)を潰して、あの地獄から俺を救った。だが俺の記憶には、制裁者(アリス)の中に道化師はいねえ。
なあ、結局あの組織はなんだったんだ?」
「………」
「制裁者(アリス)、なんだろ、道化師。あの白い服……8年前、もしかすると制裁者(アリス)の制服として渡されていたのか、俺。
俺には『仕事』の記憶があまりねえ。ただ命じられるまま……」
――BR002
「真紅色の血の海の中で、俺はそう呼ばれていた。そこに至る記憶は曖昧でも、俺が昔、何をしでかしていたのかは判っているつもりだ。
オリジナルって何だ?」
「………」
「なあ、緋狭姉なら知ってるんだろ? 道化師と俺の関係って一体なんだ?」
「……そんなに見せたいというのなら、見てやってもいいが」
「は?」
緋狭姉は俺の上半身を指差した。
「もうとうに、"解除"出来ていたのだが」
「は?」
「ついでに言うと、お前が『嫌な予感がする』と言った時にはもう出来ていたぞ?」
「はああああ!? 早く言えよッ!!!」
俺は涼しくなった上半身に、脱ぎ捨てていたシャツを纏い、慌てて立ち上がった。
準備が出来ていたのなら早く行かねえと。
「じゃあ俺、行ってくるわ!」
「場所は判るのか?」
「……あそこだろ、俺が大嫌いな場所ナンバー1」
―― 雑司ヶ谷。
緋狭姉は緋色の唇に肯定の笑いを作り、挙げた左手をひらひら振った。
地下室を飛び出した俺。
……本当に馬鹿だ。
その時の俺は、緋狭姉から"答え"をはぐらかされたことに、全く気づいていなかった。
頭の中は芹霞のことばかりで。
自分の質問すら、思考の彼方に消えていたんだ。
だから当然――
「悪夢は…続けさせぬ…」
そんな…緋狭姉の呟きも聞こえてはいなかった。