ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
何だか苦しい。
何だか体が痛いんだ。
気が付けば――。
あたしの体に、無数のいばらが巻きついていた。
数多(あまた)ある鋭い棘は、
あたしの皮膚を破り肉にまで食い込んで、ぎりぎりと力強く締めあげてくる。
その痛烈な痛みに、上げた声は悲鳴にもならず。
喘ぎのような微かな無声音だけが、あたしの口から漏れ出た。
いばらは力を緩めない。
あたしの流す血を吸い取り、
真っ赤な薔薇を咲かせる。
それは見事なまでに大きく花開く、真紅色の薔薇。
あたしの血で咲き誇る…忌まわしき薔薇。
ああ…更に花開こうと、
いばらの力は強くなる。
吹き出す血飛沫。
咲き乱れる真紅の薔薇。
痛い。
本当に痛いんだ。
痛い、痛いよ…痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い……
――たすけてえええッ!!!
はっと目覚める。
静まりきった空間。
「……夢?」
乱れるあたしの呼吸。
目覚めを自覚しても尚、動悸は激しく。
頬にべったりと貼り付いた髪が気持ち悪くて、思わず掻上げた。
騒ぐ心を宥(なだ)めるように、深呼吸を数回繰り返す。
ここは――何処?
古ぼけた神崎家でも、高級な櫂のマンションでもない。
窓もない…無機質で囲まれた、冷たい監獄。
「目、覚めたか」
低い声がした。