ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~



腕を組み、壁に体を凭(もた)れさせて佇んでいるのは、白服の金髪男。


無表情のまま、こちらを見ている。



「道化師(ジョーカー)?」



そしてあたしの記憶は蘇る。



そうだ。


あたしはこの男と共に此処に来て、この部屋を片付けて、そして……。



――食うぜ?




「!!!!!」





あたしは思わず自分の服を見た。




「!!!!?」




乱れてはいるものの、

服はきちんと着ていた。



下着もつけているようだ。



だけどそんな"外側"は、絶対的証拠にならない。





完遂?


未遂?





甚だ微妙。



あたしの手が赤い痣になっている。


指の痕が…いばらのように思えた。



まるで…

夢のいばらが現実のものであったかのように。




金の瞳は、こちらに向いたまま…動かない。




「あ、あの……」




声が震えてしまった。


あたしだって、女だ。


"ハジメテ"に過度の幻想は抱いていないけれど、これはあまりにもショックだ。



覚悟はしてはいたんだ。


条件を呑むと言った時から。



だからこそ。



一方的だと非難は出来ない。



判っている。

判っているけど……。



「あ、あたしは、あんたと……」



泣くな。

絶対泣くんじゃない。



あたしは俯いて拳を握った。



ぼろぼろ涙が零れ落ちた。



泣くな。


泣くな。


被害者ぶるんじゃない!!!



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