ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
どんな玄人(プロ)でも、人間の域を出ぬ限りは…俺には危惧すべき材料にはなりえず、ただのうざったい雑魚と化すだけで。
こんなものに――
芹霞との距離を阻まれているのかと思えば。
こんなものが――
俺を抑えられると甘く見られていると思えば。
俺の怒りは上がるだけだ。
俺は…そこまで弱くない。
見くびるな!!!
ずがああああん。
爽快だと、思うことは許されるだろうか。
ずがああああん。
怒号、悲鳴も容赦なく、重い轟音が視界の輪郭を粉砕する様は、苛ついた心には気分が良いんだ。
こんな姿――
芹霞が見たらどう思うだろう。
いつまでも隠しきれるとは思っていない。
だが"普通の人間"として接したい…そう思うことは罪なのか。
それでも今。
芹霞へと続く道筋に障害があるならば。
どんな形であれ、積極的に破壊したいんだ。
形振り構っていられない。
屋敷の様は見る影をなくし、ただのアスファルトに還った瓦礫は、それでも尚も積み重なって道を阻む。
苛つく。
絶えることない多くの敵意。
苛ついて仕方が無い。
俺の――
邪魔をするな。
拳に力を込めたその時だった。
後方から音がしたのは。
「!!!」
自然現象ではなく、明らかに人為的。
高い…物理的障壁が崩れ落ちる音がしたんだ。
この気の流れは――
「……煌?」
障害物に出来た貫通穴。
砂埃の幕が落ちた時、
穴から現れたのは――
「櫂ッ!!!」
芹霞だった。
俺が会いたくてたまらなかった芹霞だったんだ。