ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
究極の凍気と冷気を迸(ほとば)らせ、それであたしを凍り付かせて、絡め取ろうとしている我が幼馴染みは。
「ん? どうした?」
優しげなのはその物言いだけ。
逃げたくても足が地に着いていない。
それでも必死に四肢をばたばた動かすあたしは、まるで宙でクロール遊泳しているかのようだ。
いつからこんな怪力!!!?
あたしは困って緋狭姉に助けを求める。
「お前の蒔いた種だ」
訳の判らない台詞で拒まれ、
思わずキッと蒼生を睨み付けると、
「がんばってね~」
と手を振られた。
孤立無援、対岸の火事。
人の不幸は蜜の味。
いいよ、もう……。
戦意喪失、意気消沈。
項垂れたあたしを櫂は地に下ろし…そしてがっしりと腕を掴むのも忘れない。
何処までも逃さないつもりらしい。
そんなあたし達の"落ち着き"を目にして、まず口を開いたのは蒼生だった。
「アカ。直接来るなんてルール違反だよ」
口許を吊り上げて笑う。
「そういうお前こそ、駒に手を出した時点でルール違反だろう?」
相対する、非情な青色と紅蓮の赤色。
主張する色の存在感が大きすぎる。
「……知り合い?」
「腐れ縁だ」
緋狭姉が心底嫌そうに言った。
「君と気高き獅子程長くはない、腐れ縁だね」
反対に蒼生は愉快そうに言う。
「あたしと櫂は腐ってないわよッッ!!! あたし達はずっとずっと、未来永劫…清く正しいお付き合いなんだから!!」
あたしは思わず、勢いをつけて怒鳴ってしまった。
「あははははは~」
突然蒼生が笑い出した。
「可愛いだろ、妹は」
緋狭姉はにやりと笑った。
馬鹿にされたようで面白くないあたしは、応援を求めて櫂を見遣った。
櫂は――
不貞腐れているようだ。