ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「清く正しいよね?」
真剣に訊いたら、櫂は少しだけこちらに切れ長の目を合わせ、そしてふいと向こうを向いてしまった。
「……今は、な」
何だ、その限定は。
「え、じゃこの先、不純で間違った付き合いをするの?」
というか、どんな付き合いなんだろう。
「お前次第」
櫂はまたこちらをちらりと見ると、ふいと向こうを向いてしまった。
あたしを掴んだ手はそのままで。
「あははは。芹霞チャンがあまりに可愛いから、君をお義姉さんって呼びたくなってきたよ、アカ」
「こんなけったいな義弟、私はいらん。というより、アレが許さんだろう」
緋狭姉が指差したアレは、蒼生を睨み付けていた。
「あははは。じゃあ芹霞チャンを賭けて勝負する?」
蒼生がゆらりと身体を動かした。
櫂が目を細めるより早く、緋狭姉が間に入る。
「お前が動けば、賭けは無効だ」
「酷いよ、アカ~」
「坊をいじるのは私の役目だ。お前如き胡散臭い輩が、勝手に手出しするのは許さん」
「胡散臭いなんて酷いよ~、あはははは~」
「その言葉遣いと笑い声だけでも充分胡散臭い。お前は存在自体が胡散臭いんだ、そう思うだろう芹霞」
突然訊かれたあたしは、思わず素直に、
「うん」
そう答えてしまった。
「え~!!!?」
蒼生が何か言っているが無視することにした。
やがて諦めたらしい蒼生が緋狭姉に向き直る。
「……で、何しに来たのさ、アカ。
俺の牽制だけに出向いたわけじゃないんだろ?」
「ああ。"時間稼ぎ"するお前に付き合うのもいい加減飽きてきた。こちらの用も終わった。そろそろ幕切れだな。
――牽制、させて貰うぞ。
力ずくでな」