ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
やばい、やばい、やばい。
此の場所はいつ敵に狙われるか判らない。
敵は制裁者(アリス)1人だと限らない。
僕は出来る限りの早さで芹霞を抱きかかえて裏門に向かい、ベンツの後部座席に芹霞を押し込んで、ドアに鍵をかけた。
裏門まで直ぐの場所だったのが、不幸中の幸いだった。
「芹霞、芹霞ッッ!!!?」
僕の声は芹霞に届かない。
僕の息が否応なしに乱れる。
震える手で月長石を取り出した。
石に詰めた…電気の0と1のコードを、防御と攻撃部分も余分なもの全て、猛速度で"回復"に書き直し、中の力を解放したんだ。
とにかく必死で。
考えつく限りの"回復"措置を施す。
芹霞は動かない。
益々血の気をなくし――
紫色に変色している気さえしてくる。
嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ。
もう僕は気が狂いそうで。
組んだ手で、動かない芹霞の心臓に断続的な衝撃を与える。
開かない黒い瞳。
その唇に乱れた息を思い切り吹き込んだ。
反応のない小さな唇。
僕の眼から涙が零れた。