ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


揶揄ばかりの言葉には、ひと言ひと言伝えたいメッセージがあるようで、それを櫂や玲や……きっと桜も、多少なりともその意図は感じ取れるみてえだが、俺はてんで判らねえ。


いつも額面通りしか捉えられなくて、結果真っ赤になって叫ぶだけだ。


緋狭姉お得意の下ネタの真意なんて、考える余裕はねえ。


それを見越して、益々からかわれていると判っても……俺は"学習"が苦手らしい。


だけど。


芹霞想って一人悶々としているよりは、普通に話せる相手がいるのは嬉しい。

話しても…ただからかわれて心を沈められるだけだけど、それでも俺の心を否定せず、耳を傾けてくれる相手がいるってだけで、俺の心のつかえは楽になる。


その相手が櫂でも玲でも桜でも、ましてや芹霞でもなく、よりによってあの緋狭姉だという処が笑っちまうけれど。


咎人が、懺悔室で己の罪を告白する気分って、似たようなもんなのだろうか。


行き場のねえ心を、認めて貰いたくて。

浅ましい心を持つ"自分"を、赦して貰いたくて。



緋狭姉も氷皇と同じく、取る行動に"無駄"も"偶然"もありえねえ。


道化師に話を聞くことの利点が、本当に芹霞を助けられることだけなのか、どう考えても俺には判らねえ。


だけど櫂が、真っ直ぐ陽斗の元に行ったのは、緋狭姉が意味した"何か"まで、陽斗から聞き出そうとしていたんだろう。


暴力的な方法では、陽斗は死んでも口を割らねえだろう。

陽斗は、すげえ"男の矜持"に拘っている節があるから。

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