ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
 

不服そうに、中々芹霞を手放そうとしない櫂に、



「非常事態ッッ!!!」



僕は芹霞の身体を奪い、

櫂の手を勢いよく払う。



これは必要最低処置だ。



櫂、そんな恨めしげに僕を睨むなよ。


煌、お前もなんだその顔。


おいおい、陽斗。

お前も睨むのかよ。



羽交い締めをするように引き離した芹霞は、途端身体の向きを変え、僕と正面から向かい合わせるような状態になると、今度は僕に飛びついてきた。


「うわっ!?」


足下のフライパンに躓き、身体が後方に倒れる。


芹霞が怪我しないようにその身体を腕に包み込んで尻餅をつけば、芹霞が僕に馬乗りになった体勢になった。


芹霞がじっと僕を見つめて、口をぱくぱくした。


声が出ないらしい。


上気したその可愛い顔を、少しだけ斜めに傾けて。


吸い込まれるような神秘的なその黒い瞳を、うるうると潤ませて。


更に、芹霞はその距離を縮めてくる。


「な、何?」


僕はひきつった顔で後退した。


突き刺すような周囲の視線。

僕がどう行動するのか、見定めている。


その行動次第で、彼らはきっと実力行使に出るだろう。


判ってはいるけれど。


好きな相手にこんな顔向けられて。

迫られているような状況を拒むことは難しくて。


僕だって健全な男だし。


そんな複雑な思考が邪魔をして、

僕は心ならずも、がちがちに固まってしまった。


喉が異様に乾く。


僕は成人している。

思春期の子供じゃないというのに。



そして芹霞は――






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