ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
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深夜2時。


夜光塗料の時計の針は、丑三つ時を示していた。


しんと静まり返った居間。


皆を起こさないよう、忍び足でキッチンに向かう。


「……よう、身体の調子はどうだ?」


突然あたしの肩に手を置かれて、あたしは吃驚して大声をあげ――ようとしたけれど、声が出るはずもなく。


「やっぱ……出ねえのか、声」


ばくばくする心臓を押さえて振り向けば、翳った金色に覆われた男。


ベランダに至る窓の藍色のカーテンが、ばさばさと風に靡いている。


そこから漏れる月の光が、陽斗の輪郭を際立たせた。



――陽斗ッッ!!!



動いている。


喋っている。


蒼生は約束は守ってくれたんだ!!

 
この感動を言葉で表現出来ないのが口惜しい。


あたしは凄く嬉しくて、思わずその場でぼろぼろと泣いてしまった。


「おい、何だよ、芹霞ちゃん……」


陽斗は本当に困った顔をして、

落ち着かない目と手をあたしに向けてくる。


その不器用さが嬉しくて。

そして懐かしくて。


あたしは泣きながら、笑ってしまった。


生きているって、何て素晴らしいんだろう。


照れくさそうな金の瞳は、とても穏やかだった。


何だかそれが嬉しくて。


金色の瞳が、ぴたりとあたしの首筋で止まった。


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