ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~

………?


陽斗が指をさした。



「それ――誰の?」


それ?


これは…今し方、部屋で着替えたばかりの、あたしのお泊まり用のTシャツとハーフパンツ。


用意していてくれたのに、着替えたんだ。


可愛いでしょう、ピンクのウサギのシャツと、人参柄のポケットがついた白いハーフパンツ。


自分を指してにっこり笑ったら、


「見れば判るだろ!!!

そんなものあいつらの誰が着るんだ!!!」


そう言う意味ではなかったらしい。


はて?




「お前……さ、熱出して血行よくなったんだろ。他のがもう殆ど消えてるのに、どうしてそれだけ残ってるんだよ」


何だか陽斗は怒っているようだ。


「ありえねーだろ、普通はよ。

だとしたら…


再度つけたっていうことじゃねーかッッ!!」



――上書き。



!!!



あたしは洗面台に駆け込み、大きな鏡で首元を見た。


鎖骨の真上に、1つだけ赤い痣があった。


これ――キスマーク?



多分、凄い顔をして鏡を睨み付けていたんだと思う。


後からやってきた陽斗が鏡越しのあたしを見て、顔を引きつらせているのが鏡で判った。


「お前さ、やっぱりそんな仲なの、紫堂櫂と」


気味悪いことを言い放つ陽斗に飛びかかり、思わずその首を絞めた。


「判った、判ったッッ!! 本気で首絞めるな、聞いた俺が悪かったから落ち着け」


陽斗がポケットから、以前玲くんの胸につけた絆創膏みたいなものを取り出してあたしのその痣につけた。


「用途は違うけどよー、隠すにはいいだろよ。むしろ、喉の治療にいいか?」


声が出るなら聞いてみたい。


どうして男ってこんなものに拘るの?


というより――

< 516 / 974 >

この作品をシェア

pagetop