ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


陽斗の顔が僅かに歪む。


更にペンを走らせる。


"あたしは騙されたなんて思ってない。自分で望んで陽斗についていったの。あたしが望んだ結果に、後悔なんてしてない"


陽斗はじっとあたしを見ている。


"あたしなりに精一杯考えた行動の先で、声が出なくなるとは予想していなかったけれど、でも必ず声は戻る"


「戻るって言ってもさ……」


辛そうな顔をする陽斗。


"櫂が治すって言ってくれたから。櫂はやると言ったら必ずやる。あたしは櫂を信じている。あたしだって、黙って待つだけの女ではないけどね"


にっとあたしは笑った。


「……櫂、か……」


絞るような掠れた声。


切なげに揺れる金色の瞳。


「そんなにいいか、あいつが」


微かに苛立った面差し。


段々と深くなる眉間の皺。


そうか、こいつは紫堂に恨みがあるんだっけ。



"当然!!! 自慢の幼なじみだもの、その凄さはあたしが保証する。だから、陽斗も櫂を信じてよ"



「……」



"紫堂じゃなくて、櫂を信じてよ"



「……やっぱさー」


陽斗が儚げに笑った。



「直に声が聞きてえな、芹霞ちゃん……」


そっとあたしの頬に手を寄せる。


そしておずおずと親指を伸ばして、あたしの唇をなぞった。


その悲嘆に暮れた顔は凄惨で。


「例えあいつの名前ばかり呼んでいてもよー、それでも万に1度でいいから…俺の名前を呼んで貰いてえな……」


懇願のように、切なげに目が細められる。


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