ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
鉄面皮と噂される紫堂の御曹司。
柔和に微笑続ける、櫂様の参謀。
厳つい面差しで威嚇する、櫂様の護衛役。
それが――
同じ1人の女性に簡単に乱されるなんて。
女など数多く居るというのに、そして選べる恵まれた立場に居るというのに、なぜよりによって全員が全員、同じ女性を求めてしまうのか。
しかも彼女は恋愛感情には極端に疎く、それ以上にある厄介な母性愛で、普通以上の深い繋がりを皆に求めてしまうから、話はややこしくなるばかりでいつまでも平行線だ。
誰かが芹霞さんにも判る簡単な言葉で想いを告げればいいのだけれど、誰もが櫂様に遠慮し、そして当の櫂様自身、決定打を言い澱んで数年。
何でも完璧な結果を求める櫂様が。
欲しいものは早急に陥落させる櫂様が。
何故そんな曖昧な態度で指をくわえて待っているだけなのか、私には判らない。
ひと言。
たったひと言で何かが変わるであろうに。
それが出来ない理由は何なのだろう。
きっと――
玲様は、知っているのだと思う。
玲様が櫂様を揶揄する時、
『8年前』と言う時がある。
その具体的な数字で、芹霞さんに乱される櫂様を制することがある。
キーワードは8年前。
8年前。
櫂様と芹霞さんの間に何かあったのだろうか。
――8年前に戻りたいの?
そしてこの間の緋狭様も。
――無関係ではない8年前を鑑みることは、即ち芹霞の過去に自ずと繋がる。
――坊……腹括れよ?
やはり…持ち出したのは、同じ"8年前"。