ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
"でも、携帯有り難う。少しずつだけど声戻っている"
すると陽斗は、驚いた顔を上げた後、嬉しそうに笑った。
陽斗は変わったと思う。
感情豊かになった。
"ところで、あたし達何故ここに?"
「お前あの場で倒れて、俺は俺で氷皇にやられて……気づいたらここに運ばれていた」
氷皇――
最後に見たあの青色はやはりそうか。
隣の部屋に居るのだろうか。
「お前さ、あの男……御階堂とどうするよ?」
言いにくそうな口調だったけれど、それでも金の瞳は真剣にあたしを見つめていて。
"当然破棄。無効。冗談じゃない"
すると陽斗は安心したような表情を見せた。
"だけどどうしようね?テレビカメラ来てたから、全国区で流れちゃったかな、あたしの顔"
「そんなのはどうとでもなるさ。"あの男"なら、無駄に金も力もあるんだし。むしろ見境なく、そういうもの注ぎ込みそうな気がする」
不機嫌そうにぷいと顔を背けてしまった。
"あの男"
櫂のことをいっているのだろうか。
"櫂が知るわけないじゃない。今頃祭の準備で大忙し…って、櫂大丈夫かな"
御階堂が変わらず櫂を目の敵にするのなら、剣舞はおろか、今この時だって危ないんじゃないだろうか。
不安になってあれこれ考えていたあたしに、
「芹霞ちゃんよー」
気怠げな声がかけられた。
「もし……相手が御階堂ではなく紫堂櫂だったら、お前は喜んであいつの元へ行っちまうわけ?」
は?
「あいつのものになっちまうわけ?」
斜めに覗き込んでくるその顔は。
切なそうな色を濃く浮かべて。
だからより一層、真摯さが際だっていた。