ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


「来たようだね」


玲も固い声を出す。


「ああ、そのようだ」


煌は、顕現した偃月刀を手にしている。



「そういえば、煌。

お前、手は大丈夫なの?」


玲が聞いた。


「完全ではないけど動かすことが出来る。大丈夫だ。

思えば……緋狭姉はこのことを予想していたんだろうな」


しゃらん、と…緋狭さんからつけられた煌の腕環が、煌の手首で音を鳴らした気がした。



――坊、腹括れよ。



まるで、緋狭さんの言葉を伝えるかのように。



視界の向こう側。



禍々しい気配がした。


その数は…膨れあがる一方だ。



逃れられない。



俺は覚悟を決めた。



逃れられないなら――

突き進むまで。


無論、逃げる気などないけれど。


芹霞に会う為に、

生き抜いてやる。



俺は…拳に力を込めた。



 
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