ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~



櫂は。

煌を見下ろす櫂は。


怒りよりも、訝しさよりも、ただひたすら哀しげな眼差しで、煌の荒んだ顔を見ている。


予感がする。


理由は判らないけど――

このままにしておくと煌は駄目だ。


確実に櫂と衝突してしまう。


ただひたすら一方的に。


煌が崩れてしまう。


どうしよう。

あたしはどうすればいい?



あたしはしゃがみ込んで、

褐色の瞳と同じ目線に立つ。



「……煌」


あたしの声が届いたのか、

その目はあたしに向けられる。


凄く…刺々しい視線だった。

まるで…8年前のような。


何で突然こんな風になったのか判らない。


戻れ。

いつもの…可愛いワンコに。


あどけない笑いを見せる…いつもの煌に。



それが――


「らしくないよ?」


本当の煌でしょう?



すると褐色の瞳は、苛立ったように細められた。


無感情というより、

何かの感情が爆発しそうな痛い視線。



「流されないで、煌」


何が起因か判らないけれど。

もし櫂を憎む情が湧いているならば。


「真実と虚構の区別くらい、できるでしょ?」


それが真実のはずがない。


あたしは知っている。



煌にとって櫂は絶対的存在。


憎むべき要素は全くない。


あるのだとすれば、誤解に決まっている。


あたしは、8年も煌の幼馴染をしてるんだ。


どんなに煌が櫂を慕っていたのか、あたしは知っているから。



< 704 / 974 >

この作品をシェア

pagetop