ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~

├王子様の猜疑心


櫂Side
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煌の様子がおかしいと――

他人事のようには振る舞えない。


煌から、明らかに俺だけに向かわれているもの。


それは敵対心。

それは…嫉妬。


耐えるのではなく、

溢れているのではなく、


抑えつけようともしていない…

ありのままの煌の真情。


――櫂、聞いてくれよ~。


俺の…大事な幼馴染。


暁の髪を持つ、護衛役。


外見からは想像できない、その…馴染みやすい天真爛漫さは、何処か…芹霞にも似ていて。


――俺の主は、櫂以外にはありえねえ。昔も今も、未来も。



俺に。


主たるこの俺に牙を剥く程、

芹霞に本気だということなのか。



駅のホームで芹霞の足を触れた煌。



あいつ――


俺の前で芹霞に欲情していたんだ。



そして芹霞も――


無意識にでも煌の"男"に気づき始めた。



紅潮始めた"女"の頬に、

僅かに乱した息遣いに、


俺が気づかないわけはない。


応えるなよ、俺が居るだろう?

俺だけに見せろよ、そういう顔は。


俺に。

俺だけに!!!



叫びだしたい声を必死で押し殺し

永遠に思えたその刻に我を忘れ、


もう駄目だと…拳を握り締めた時。



――うん、ありがとう、煌。



もし芹霞がそう、煌を拒まねば。


間違いなく――煌を殴り倒し、

芹霞の唇を奪っただろう。


唇は、芹霞が目覚めた時に。


時に流されそうになるけれど、

それは俺自身の暴走を食い止める為の、

暴れる獅子を押さえつける為の、


自分に架していた枷。



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