ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


そして――。


櫂を背負って、

厳しい顔をした桜が薄暗い階段を上ってきた。



櫂がおかしい。



駆け寄ろうとした芹霞が、瞬間動きを止めた。


心配そうな眼差しを向けたまま。



ぐったりとしている櫂。


額からは大量の汗。



俺が櫂の元に近寄り身体に触れてみると、すごい熱だ。



「桜、玲は!!?」


こんな熱など、玲の結界があれば回復できるんじゃないか。


桜は、ポケットから月長石を取り出した。



「これだけ残して、玲様は居ませんでしたわ」



どういうことだよ、これは!!?


「玲が、櫂を置いて消えるなんてありえねえだろ!!」



何があった、玲。



「……ううっ」



櫂は意識が混濁しているようだ。


何か唇が小さく動いている。


何かが切れ切れに漏れ聞こえてくる。



俺が耳を澄ますと、



「芹霞……」


繰り返されるのは、その名前だけ。


俺は見ちまう。


櫂の頬に残る筋。



泣く程――


弱りきる程、芹霞を求めているのか。



遠ざかって眺める芹霞には、きっと見えねえ。


胸がきりきり痛むが、そんな場合じゃねえ。



「どうする!!? 結界がないなら、何処へ行っても同じだ!!」


その時、芹霞が動いて陽斗と向き合った。


「陽斗、解熱剤はないの?」


「……一応」


俺の知らない単語に、渋った態度を見せる陽斗。


そして手を伸ばして催促した芹霞に、陽斗はため息をついて、嫌々そうに上着のポケットから小瓶を取り出し、中から白い錠剤を2つ取り出した。


こいつ――医者かよ。



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