ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~



そして寝転がりながら、あたしは続きを読んであげた。


「――お姫様は、王子様のキスで目覚め…」


最後の場面。

途中で、口を噤(つぐ)んでしまったあたし。


「どうしたの? 芹霞ちゃん?」


あたしと同じように寝そべっている櫂が、不思議そうな顔を向けてきた。


「ん……。目覚めたお姫様がね、初めて見る王子様のことを『まあ、あなたでしたの』って、『なつかしそうに』言うだって。

ずっと眠ってたのに、なんで判ってたのかなあ?」


あたしは首を傾げた。


「んーなんでだろうね?」


櫂も、同じように首を傾げた。


「だけど僕なら。

もし…芹霞ちゃんが僕を助けにきてくれたら」


あたしは、ききらきら光る黒い瞳を見つめた。


「僕は…きっと判ってるって思うよ?」


「本当?」


櫂は笑った。


ふわりと…天使の笑みで。


「うん。僕達は…"運命"。

永遠だからね」


可愛い櫂。


「僕を目覚めさせてくれるのは…

芹霞ちゃんだけだもん」


あたしだけの櫂。


あたしはまた、櫂をぎゅうって抱きしめて、えへへと笑った。



「そうだね。あたしは――

櫂を助けに行くからね。


どんなことがあっても。


だから…目覚めてね、櫂」



そしてあたし達は、


「「うふふふふふ」」



暫し見つめ合って、笑い合った。



◇◇◇

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