ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
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「ん………」


目を覚ました場所は、見慣れない部屋だった。


薬品特有の、鼻につくアルコールの匂い。


ぼんやりとした視界に、次第に輪郭を持ち行く景色は、浅黄色のカーテンに覆われた閉鎖的空間。


あたしは――

簡易ベッドに寝かされていた。


あたしの記憶の中の場所と一致するというのであれば、此処は"保健室"と類型される場所だろう。


何処かは判らないけれど。


「あたし――何で?」


直前の記憶が蘇る。


最後の記憶は、風が吹いて――

突如お腹に当て身を食らった衝撃。


…………。


そうだ。


あたしは、煌と陽斗と共に、桜ちゃんが背負った櫂を…


「………」


櫂を――。



――永遠なんて…俺を殺す気かよ。



ずきん。


大きく痛みを感じた。


心臓に、お腹に、頭に。

櫂をよく知るあたしの全部分に。



――芹霞ちゃあああん!


あたしだけの櫂は居なくなってしまった。


――うん。僕達は永遠、運命だよね。



この空虚感。

この寂寥感。


そしてそれらを上回る激痛。


"あたし"を構成する関節が、

痛みにぎしぎし音を立てる。



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