ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~

├電脳オタクの対峙

 玲Side
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「芹霞、見ないッ!!」



慌てて僕は芹霞の目を覆った。



間に合うか!!!?


僕の両手が…

芹霞の乱れた呼吸を感じている。



だけど…それも次第に落ち着きを始め、規則正しくなっていくのが判った。


間一髪か。


何とか――

間に合ったようだ。



僕はもう…

芹霞の心臓は止めさせない。



僕が居て、そんなことにさせやしない。



その決意で…改めて見た。


氷皇の横で、艶然と微笑む少女を。


明治神宮ではじっくりと見れなかった、その姿を。


目許に3つのホクロ。

藤色の着物姿。


漂う空気は、幻惑的で。

何処までも堕落的で。


先刻相対した時よりも、凶々しさを強めていて。


ああ…

僕の血に眠るものと近しいものがある。


僕の心がさざめくんだ。


狂いの…血が。


ざわざわと…理性を狂わせていく、気狂いの血。

僕がひた隠しにしている"僕"の姿。


それを知る氷皇は、だからこそ煽った。



『熱い熱い熱烈ちゅ……』



そして用意されていた"証拠映像"。

よりにもよって…最高潮の映像を。


――あははははは~。



引き出そうとしたのは…"僕"か。

櫂を滅ぼそうとする…狂いの"僕"か。


僕は試されていたのだろう。

僕の理性の限界を。


どんな状況においても、

僕は僕のまま…冷静にいられるのかどうか。


試す…ではなく、遊ばれていたのかもしれない。


そして…僕は、負けてしまった。

自分の欲に。


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