ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~

├飼い犬の混乱

 煌Side
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緋狭姉は昔から神出鬼没だ。


だけど会いたくねえ時には現れないし、困った時や行き詰った時には必ず姿を現す。


いつもいつも余計な一言が多くて心穏やかにすごせた試しはねえけど、不快な思いは不思議としねえ。


それが神埼緋狭の特質なのか、紅皇としての特質なのか判らねえけど。


今回もまた緋狭姉は、櫂を救うべく現れた。


否――

俺の邪眼で惑った時、陽斗を遣わせた時から現れているか。


その緋狭姉が、紅皇の姿で現れた。


昔笑って言ったよな。


――私が紅皇の姿になる時は、私が蒔いて育った悪芽を刈り取る時だ。


本当に意味が判らねえ。


大体、未だ紅皇として人から崇拝されて伝説化している緋狭姉が、悪芽なんか育てないだろ。


というより、そんな事態を赦すはずねえだろ。


もしかして暗に俺のことを言っているのかと、いつ緋狭姉が紅皇の姿で俺を刈り取りに来るか、どきどきして寝れない日もあったけど。


それが、今?

何で今?


疑問符だらけの俺の前で、緋狭姉は語りだした。


血染め石(ブラッドストーン)。



正直、俺は今まで――

櫂の守護石というものを見たことがねえ。


玲の月長石だって、今回の件がなければ目にしなかったろうし、特別目にしたいものでもねえし。


守護石が必要になるのは、武器に顕現させる紫堂の警護団だけだ。


紫堂の力を持つ人間は、石の力なんて必要ねえ。


そんなものなくても、十分強いから。


櫂だって、玲だってそうだ。


石なんかなくても、あいつらは力も体術もずば抜けている。


だから石の有無など、気にしたことなんかなかった。

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