ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


1つ疑問に思った。


「脳は……老化しないんですか?」


すると緋狭様は笑って言った。


「当然するだろう。脳細胞は老化し壊死し……だが他のものと挿げ替えれば、藤姫のものとして再生出来る。

あとは記憶を植え付けるだけだ。だが"今"、黒の書の知識が必要だった。やむを得ず脳の記憶を残す必要があった」


「何でだ?」


煌が首を捻って訊くと、櫂様が薄く笑った。


「黒の書でいう儀式の日蝕が……今日だからですか?」


「へ? そういえばお前、元老院の前でもそんなこと言ってたな」


「否定しなかったからそうなのだろう。俺の知る限りおいて、"第8の月、太陽が…占星学でいう獅子座の宮にある収穫祭で日蝕が起きるとき、黒の書の秘められたる力は最大になる"……それが今日だ。収穫祭とはいわゆる御子神祭。今となっては祭どころの騒ぎではないが」


「日蝕って……今日あるのか?」


「ああ。確かそれは……」


「4時だ」


緋狭様が答えた。

 
一般的には夕刻だが、夏至の4時ならばまだ太陽は高い位置にある。


私は時計を見る。


まだ時間はある。


「3時で呪詛で地を満たし、4時にて禁忌を解放するか。どこまでも準備いい。俺の動きを封じて、芹霞から石を奪い……そして黒の書で東京を一斉崩壊か」


くつくつ、櫂様は笑った。


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