ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~



「8年前、あいつを眠らせたのは私だ。

元よりあいつには罪がない。いいように扱われた哀れな存在。

制裁者(アリス)の原型は、邪眼は効かぬ。だとすれば制裁者(アリス)にもなりきれぬ。仲間の死を見ながら、ただ不死に近い肉体を弄られるだけの日々。

私は金を殺すわけにはいかなかった。かといって生かしておけば、藤姫達にまたいいように利用される。だから私が眠らせた」


それを8年後――

氷皇が目覚めさせたというのか。


「アオの口車にのって、金は紫堂の怒りを爆発させたようだ。元々アオ達と金との間に信頼関係はない。

あいつは残された緋影の行く末を案じ、あいつなりに自分のような目にあわせないよう、護ろうとしていた。結果はどうであれな」


その時だった。

櫂様が手にしている玲様の月長石が光り始めたのは。


緋狭様の色ではない。


青色。

これは――玲様の色だ。



「ふむ。玲の方もうまく抑えられたようだな」



緋狭様は満足気に頷くと、私達を促した。



「地上に上る。時が来た」



皆一同に強ばった顔をして頷き、出口を目指して背を向けた。


私は――

皆に気づかれぬよう、こっそり緋狭様に声をかけた。



「あの……緋狭様。

1つだけよろしいですか?」



緋狭様は、澄んだ瞳を私に向けた。


芹霞さんと同じ、神秘的な光が点った眼差し。

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