ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


例えお前の命が、血染め石の力による仮初めのものだとしても、俺しかできないことなら、俺しか守れないことなら、どんなものでも利用してやる。


――櫂、お前を次期当主に任命する。


親父からそう言い渡された時。


俯き震えた玲の顔を見ながらも、俺は心で悦んだ。


俺にとって次期当主とは、俺個人のステータスであるという以上に、芹霞を守る盾が強まったということ。


親父も伊達に当主をしていない。


潜在能力は俺の方があったのかもしれないが、顕在的なものでいえば、当時紫堂の中では断然親父が1番だった。


五皇の中で味方をしてくれている緋狭さんと親父の力によって、闇石は芹霞の生命維持の力の糧とし、例え俺が力を操れるまでの一時いえど、それは芹霞を生かすためには必然的な事象だった。


玲から次期当主の地位を奪取したのは。

奪取する為に死に物狂いで緋狭さんの過酷な修行についたのは、頑なな親父を動かす為だった。


そして親父に言われた。


『自惚れるな、櫂。もしお前が、次期当主の地位を失った際には、私も紫堂の全ても、もうお前を庇わぬ。あの娘から石を取り出す』と。


裏で親父と藤姫との『何れ渡す』という密約は知らないまでも、親父がその気になれば、当主権限で全紫堂を動かして、俺ではなく芹霞に危害を加える恐れがあった。


俺は親父の言葉に縛られ、

紫堂を背負わねばならなくなった。

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