ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
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あの時――


緋狭姉と桜にあの場を任せて、

櫂と共に怪しげな物々しい建物に向かったあの時。


空は真紅、緋狭姉の色。


見守られるように先を急く俺達に、予想通り…血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)は溢れ返っていた。


ただの"行進"じゃねえ。


まるでこの世界で、俺達だけが"餌"であるかのように…はっきりとした欲を持って俺達に襲い掛かってくるんだ。


それはこいつらの本能的"食欲"か、何か…外的原因による"殺意"が向けられているものか、判別は出来ねえけれど。


元人間達は、体が朽ちても…本能だけは現存されるもんなのか。

体が朽ちなくても、本能を押さえられる芹霞と…まるで対照的で。


"生きる"って何か、わけが判らねえ。


ただ判ることは、芹霞は、この血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)のようなモノじゃねえ。


れっきとした生きた人間だ。

誰が何と言おうと、俺はそう言い張りたい。


芹霞の温もりを、護り続けてきた櫂。


先刻から何も口にしない。

極度にぴりぴりとした緊張感孕んだ空気を身に纏い、ただがむしゃらに…血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)を風で切り刻んで、前進するのみ。


引く気は…ないらしい。

真っ直ぐに見つめるその眼差しは、痛いくらいだ。



「………」



体調はどうだ?

体は辛くねえか?


気をしっかりもって行こうぜ?

必ず玲と芹霞を助けよう。


いつもなら気軽に言えることも、言い淀んでしまうのは…櫂がそういう気軽さを跳ねつける程に、ぴりぴりしているから…だけが要因じゃねえんだ。


俺が…櫂に声をかけられねえ。


思い出しちまうんだ。

俺が仕出かしたこと。


俺…櫂に何言ったよ?

俺…櫂に何したよ?


罪悪感に胃がキリキリしてくる。


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