=寝ても覚めても=【完】

『心臓の疾患。大人ならすぐに手術だけれど』


宇治方先生はそう言って、見つかっては不味いはずの煙草に火をつけた。


『小さいけれど、直嗣と同じ病だ。あの家は血が濃いから、呪われているのかもしれん』


だからこれからどうなる、とかどうすると言う説明はなかった。



母親の奥方は、十月十日腹にいた我が子を腕に抱けぬと聞いて、はらはらと涙を流すばかりだと言う。

主の弟は昨夜、あれだけ取り乱していた。



主は自分と同じ苦しみを味わっている赤子を目の前にして、今何を思うのだろう。

畑違いの研修医である自分になど、彼にかける言葉は見つからなかった。


仁科は見ていられずに目を伏せて、開けた扉を静かに閉じた。

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