=寝ても覚めても=【完】
あの日の弥栄の言葉に嘘はなかった。
子供を抱くことを許された倫子はその小さな体を浩毅には渡そうとせず、
『自分の子供だと認めない人になんて、触らせたくありません』
と言いきったと言う。
仁科はそれを聞いても、あのお上品で大人しそうな奥方が、夫に楯突いたことが信じられなかった。
「勝手にしろと言ってきました」
浩毅は主の病室で不機嫌に不貞腐れていて、弥栄の話しを思い出した仁科と主は顔を見合わせた。
根負けするのは時間の問題と思われた。
保育器でたくさんの管につながる赤子を見たときには動揺したに違いないが、目の前で愛する妻が抱く我が子を可愛いと思わないわけがないのだから。