忘却の勇者

オメガが氷の壁を破壊しているのだ。


「どこに隠れたのかな? もっと楽しもうじゃないか」


言葉が氷に反響しエコーする。


一つまた一つと重音が響くと、オメガの声も少しずつ大きくなってレインの耳へと届いた。


気だるい身体に呑まれそうになりながら、レインはそれらを払拭するように唇を噛みしめる。


奴が本気になれば、辺りに展開された氷の壁など一瞬で破壊できる。


もしかしたら、レインの居場所など当に知られている可能性もある。


オメガはただ楽しんでいる。


レインとのかくれんぼを、死のかくれんぼを。


自分が年端もいかぬ少年の命を握っていることに優越感を抱き、じっくりとその命の時を奪っていくことに快感を覚え。


じわじわと追い詰めて行く様を楽しんでいるのだ。


まさに外道。
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