忘却の勇者

幼い容姿と口車に乗せられ呑気にチェスをやっていたが、本来の目的をやっと思い出した。


腰の黒刀を抜きとり、魔王の首に突き立てる。


まずは牽制。


この距離なら聖剣で一思いにすることも可能だが、相手は魔王だ。


どんな手を隠し持っているかわからない。この容姿も、油断させるためのものかもしれない。


不用意に事を起こすのは得策ではないだろう。


それに、聞きたいことが山ほどある。


「なぜそんな幼い姿をしている」


武器を突き付けられ、魔王の表情に笑みが消えた。


「そんなことか? 貴行の耳にも既に入っているだろう。童(わらわ)は四聖官の手によって現世に戻されたことを」


「本当だったんだ……」


ケイから聞かされた事実を肯定され、僅かながら動揺を隠せない。
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