忘却の勇者

分身が喪失魔術を発動できるわけがない。


それに分身だとしたら、致命傷を負った時点で消えるはずだ。


血の池に浮かぶ死体は、間違いなくそこにある。


じゃあ、背後のサイは何者だ?


疑問が疑問を生み出し、考えがまとまらない。


「なにが、どうなって……」


「喪失魔術・夢酔独言。幻術世界での出来事を現実世界にフィードバックすることが出来る幻術。つまり、唯一肉体的ダメージを与えることが出来る最強の幻術だ」


「三つ目の……喪失魔術……だと?」


ありえない。喪失魔術を三つも会得することなど絶対にありえない。


イアンでさえ長年の歳月を得て魔聖剣を会得し、多くの犠牲を払って死者蘇生をまかりなりにも会得することが出来たのだ。


まだ二十代の若造が三つの喪失魔術を完全に会得することなど、現実的に考えてありえないことだ。

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