忘却の勇者

全ての罪をたった一人で受け止めるなんて正気の沙汰じゃない。


自己犠牲だなんて生易しいものじゃない。


いくらサイが最強の魔術師だとしても、彼は世界を敵に回してしまったのだ。


彼にはもう安息の時は訪れない。


寝ても覚めても夜昼問わず、サイは全ての人々から命を狙われることになる。


人としての幸せなど望めぬまま、その生涯を悪意に包まれたまま終わるのだ。


「何故彼はそのようなことを平然と行えるのですか? 彼もまた、上に立つ人物だというのに」


「さあな。だが一つだけ言えることは、奴は民衆のためには戦ってはいない」


「え?」


「彼もイアン賢者同様、自らの目的のために行動したにすぎん。独り善がりな孤高の勇者さ」


そんなことよりも。と、アモスは話題を変え、身体を後ろに捻り、後ろに立つ少年の服の裾を掴んだ。

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