かさの向こうに縁あり
平助も私と同じだとすれば、お互いに素直な気持ちを伝えられていないことになる。


どうして素直になれないんだろう。

この人といる時は素直になれる、そう思っていたところだったのに。

一緒に過ごしてきた時間の短さ故か、それとも他に原因があるのかな。



「――桜、綺麗だね」



平助は一度大きく呼吸をすると、そう言った。


ほら、やっぱり素直じゃない。

話を逸らすなんて、そうだと言わんばかりだ。


その声につられてゆっくりと顔を上げると、はらはらと舞う花びらの先に、垂れた枝につく桜が視界いっぱいに広がる。

垂れた花達はそっと吹く風に揺られ、今まで気づかなかったけれど、時折顔に触れそうになる。


まるで項垂れているようだ。

それは同時に、私のようだ、ということでもある。



「妃依ちゃんは……桜、好き?」



私の顔を見て不意に問われたその問いには、何の意味があるのだろう。

考えることもなく、でも平助への想いを少しだけ込めて、彼を見ずに呟くように答えた。



「好き……だけど、今は嫌い」


「……そっか」



平助はまた少しだけ悲しい顔をした。

私も、言葉にして初めて意識しては、同じような表情をした、と思う。



好きだけど、今は嫌い……になるしかない。


それが私の、平助への気持ちだ。



数秒佇むと、「じゃあ帰ろうか」なんて簡単に呟いて、私達は来た道を屯所へ引き返した。


相変わらず表情は冴えていないけれど、声だけは明るくして、新選組の隊士達のことなどについて聞かせてくれた。


けれど、私の頭の中では、まだ一つの真実――“この人には明日から会えなくなる”ということですら、処理できていなかった。


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