かさの向こうに縁あり
久しぶりに階段を下りる。

トン、トン、と床に響くこの音が、なんだか懐かしく感じられる。



「おはよー」



眠い目をこすってゆっくりと瞬きをしながらリビングに入ると、母に起きた合図をする。

母は掃除機を片手に、2階へ上がろうとしているようだった。

朝からすごいなあ、なんて思っていると、溜め息が聞こえた。



「おはよう、もう8時よ。熱はどう?ない?」



呆れながらも、昨日の私の状態から回復したのかと問われる。


昨日、帰宅するなり、「熱でもあるんじゃないの」と父に言われるがままに計ってみると、なるほど確かに微熱があった。


それで、早く寝ろ、と言われてベッドに入ったのが20時半。

そして今が朝の8時。

実に12時間もの時を、寝て過ごしてしまったようだ。


でもそのくらい寝られてよかった、と思った。

何も考えたくなかったから。



「まだ計ってないから分かんない」


「計りなさいよー。風邪だったら大変だから」



そう忠告すると、母は階段を上がっていった。


熱といっても、なんとなく自分の感覚的に、たぶんもう下がっているだろうと思った。

気持ち的にもちょっとは楽になったということなのだろうか。


ふう、と息を吐くと、リビングのカウンター越しにある台所に移動しては、冷蔵庫から牛乳を取り出してコップに注いだり食パンを焼いたりと、いつも通りの朝食の準備を始めた。

7日も、1週間も江戸時代で過ごしていたはずなのに、どうやらそれだけの日数では日常の流れは身から離れないらしい。


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