君はガラスの靴を置いていく



そんな事もあったような、なかったような。

こんな曖昧な記憶しかないのに、どいつもこいつも思い出を口にする。だから俺とは違うんだろうなって思う。

明日香は馬鹿で考えなしで、俺と同じ人種だって思ってたのに全然じゃねーか。


『でもね、1番の形は色々あるんだよ?私はみやの女友達の中で1番を目指すって決めたの』


“どんなに頑張ってもみやは私を好きにならないから゛

そんな心の声が聞こえた気がした。


『みやはどんな風になりたい?』

『………』


『どんな風にいとりんの1番になりたいの?』


俺はやっと気付いた。

ずっとモヤモヤしてたのは千花と豊津先輩が付き合いはじめたからじゃない。

千花と付き合っていた時、俺の1番は千花じゃなかった。友達とか遊びとか色々あるけど優先順位はいつだって自分。

だから相思相愛の二人を見て嫉妬してたし、羨ましいと感じていた。


もしもう少し早く気付いていたら、もしあの時あんな事を言わなければ、もし、もし………を繰り返して、俺は戒めのようにあの二人を見てたんだ。


きっと誰でいい訳じゃない。

みんなのように思い出を振り返った時、最初に思い出すのは、

千花と過ごしたたった1ヵ月の夏の事ばかり。

無理をして純粋な付き合い方をして新鮮だって楽しんでた。思えば千花と俺はなに一つ合う所がないんだ。

育った環境も、大事にしてる事も、目指す場所も全然違って、千花は俺にないものを沢山持っている。


なにか違う、なにか足りないと感じても嫌いになれない。

合わないのに離れたくない。


この言葉を言っていいのなら、

俺は千花が好きなんだ。



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