君はガラスの靴を置いていく




『いや、全然いいよ。むしろ有難うって感じ?』


『……え?』



なんか千花の声聞いたら疲れが吹っ飛んだ。まさかかかってくるとは思ってなかったし。



『メールにしようか考えたんだけど、やっぱり電話の方がいいかなって………』


大事な事はメールで済まさないのが千花らしい。
多分夏祭りの返事だろう。



『直接って選択肢はなかったんだ』


『……あ、それも勿論考えたんだけど……上手く言える自信がなくて、その………』


思わず俺は笑みがこぼれていた。

俺自身も返事はメールで来ると思ってたし、電話なんて俺がかけない限りかかってくる事はないと思ってた。


『いいよ、分かってる。電話でも充分嬉しいしね』


これは本音。

落ち込んでた訳じゃないけど、なんか癒された。



『あの、それでね。夏祭りの事なんだけど…
私なりに色々考えて………』


声のトーンからして明らかに断る雰囲気。まぁ自信があった訳でもないし、今日は嫌な流れ続きだから仕方がない。




『…………宮澤君と一緒に行くって今日は伝えたくて……』


思わず瞑りかけていた目が開いた。

聞き間違い、じゃないよね?



『もう一回言って、上手く聞こえなかったから』



嘘、本当はばっちり聞こえてた。



『………だからその、夏祭り。宮澤君と行きます』



きっと千花は赤面しているに違いない。

今日は最悪の始まり方だったけど、終わりはそうでもない。なんかいい夢見れそう。



『うん、26日楽しみにしてる』


俺はそう言って、電話を切った。


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