みにくい獣の子



駅を出て、きな粉の話だけでみさきさんのアパートが見えるとこまで来た。お互いよく会話がもつよなあと感心する

その時、俺の目はふとアパートの向かいに路駐しているシルバーの車に向いた

「…ん?」

俺の足が止まる。車に乗った男と目があった
面識はない男
でも見たことある男

ああそうだ、


「…負け犬サン」

「は、どうしたの?誰か…」
「みさきさん、買い物袋一個もったげる」

「っえ?」


みさきさんの右手を塞いでいたショップバックをヒョイと奪った



「なんで?」

「よし、帰ろう」


俺の左手は手持ちぶさたなみさきさんの右手を掴むことに成功し、そのまま指を絡める



「なっ!?」

「おなかすいたな」

「おなか!?」



慌てているみさきさんの手を逃がさずに引いて、階段を登り始めたあたりで車の乱暴なアクセル音が聞こえた。

初めて心臓のペースが早くなる。今の自分の勢いが無かったら出来なかった芸当。


「リ、リク、さん?」

「ちょっと繋ぎたかっただけ、ゴメンナサイ」

「いいけど…焦った」




なんで焦るの?とか訊いてみようかとも思ったけれど、実際そんなことはどうでも良かったりして、


「明日は買ってもらったカーディガン着ようっと」

「、脈絡無いなあ…」



それ以上に、みさきさんの元恋人をうまく追い払えたことへの安心感が俺を満たしていた








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だって、みさきさんを連れてかれたら困るし









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