みにくい獣の子
リクは俯いて私に背を向けた。カバンを手にとり、細長いドアノブに手をかけ迷わず押し開けた
「え、え、ヒトじゃないの?いやヒトでしょ、うん」
口から出たのは彼への制止の言葉でもなく、自分の脳内でぐるぐると回る言葉で
「……」
幸いなことに、無言であるものの、ドアの向こうに消えようとしていたリクの足が止まった
ここぞと腕を掴む、しかし、何を言えばいいんだろう?
「…ここ出ていきたいの?それならフツーにそう言えばいいのに」
「居座ってた俺がゆーのもなんだけど、俺がここにいたらみさきさんに迷惑かけるだけだって」
「とりあえず、話、聞くから。さっきの話がウソであり、ホントであり…」
しどろもどろになりながら彼に言う。私の今の混乱状態は私の人生歴史に深く刻めるだけの勢いがあるだろう。
するとリクはゆっくり振り向いて、私を見た。というか、至近距離で覗き込んできた。彼には似つかわしくない無表情で、口の端だけで笑みを作っていた。
「みさきさん、すっげ目ェ泳いでる」
「な、あのね」
「怖いって思ってる」
「いや、私、状況がまだ理解出来てな」
「気持ち悪いって、思ってる」
静かにゆっくりとした口調であるのに、攻めるような冷たい気をまとった言葉だった
「別に無理しなくていいぜ、色々言われ慣れたから」
「リ、リク」
「…なに」
「リク、ハウス」
「… は?」
「ハウス!」
私は力一杯彼の手を部屋の方向へ引っ張った
「え、ちょ、何さみさきさんん!?」
「ハウスしろ、犬なんでしょ!」
「犬じゃ、ないし!…と、引っ張んなって、あぶねっ、」
ドアノブからリクの手が離れる。私は更に引っ張り続け、靴を履いたままの彼は玄関の段差で足がつんのめりバランスを崩した。
「バカ、みさき、」
ガタンッ―――
赤い髪が、私の視界を染めた。腰や肩を床に打ち付け痛みを覚えたものの、寸での所で頭だけは彼の手に守られたようだった
ああやっぱり
こいつ体温高い。