キミのいる世界で
「随分と美人さんだなー、ラッキーだわ」
段々と晴れてきた湯気。見えてくるのは、赤毛の男性。
楽しそうな口調のまま、浴槽の淵で肘をたてながらこちらを見つめていた。
「きゃああぁぁああ!!」
真っ白になった頭の中で断片的に浮かぶのは、『逃げろ』という文字ばかり。
転びそうになるのも気にせずに、全力で中へと駆け込んだ。というより、そうでもしなきゃ色々と無理だった。
派手な音を立てて水風呂に飛び込んだ後も、破裂しそうな程に激しい心拍数と荒い呼吸は直りそうにない。
見られた。見られた!? そんなことばかりが頭の中を埋め尽くす。
何とか忘れようと、頭まで水の中に浸かって、頭を冷やすことだけに集中しようと試みたけれど……。
あれだけ衝撃的な出会いだ。中々忘れることは出来ない。
外で出会うことだけはないよう祈って浴室から出ることしか、今の私には出来なかった。