オバケの駐在所
グラウンドに
声の張るかぎり
叫んだ彼女は
素早く窓の下に
身を引くと同時に
体育座りで顔まで隠れる。

一方の私もカバンに顔を
押し付けながら
外から見えないように
めいいっぱいかがんだ。

まさに瞬間の出来事。

「ちょっと〜。」

私が声を低くして
突っかかろうとすると
ちょこっと舌を出して
手で謝る仕草をする彼女。

憎めん奴だな〜。

「あいつが
気合いの抜けた球
投げてるから
私達までバカに
されちゃうんだよな。」

「私達?」

彼女は立ち上がり
お尻のスカートの裾を
両手ではたくと
メガネの中央部を
軽く持ち上げてから
親指を立てる。

「野球部の
敏腕マネージャー
だからさ。」

そう言って笑った顔は
草原をスッと
駆け抜けるような
爽やかさがあった。

「ずっと夢見てたんだ。
あいつとあいつの兄貴の
バッテリーで
甲子園へ行く事を。

だから私も少しは
手伝ってやらんとね。」

そして彼女は私に
手を振って
教室を後にする。

……幼なじみで
甲子園を目指すか。
でもあのスピードじゃな。

窓の外で
大きく振りかぶって
放たれるその球は
鋭く曲がり
壁の丸の中に入るものの
全てが目で追える程の
ヘナチョコボール。

コントロールと変化球は
抜群だが
あれだけ遅ければ
試合じゃ
通用しないだろう。
素人目にもわかる。

ありゃだみだろうな……。
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