オバケの駐在所
おじさんは
手を腰に当てて
両足で
しっかりと地面に立ち
私達を見上げる形で
そこにいる。

「ねぇ、
名前聞いてなかったね。」

「……はじめ。
数字の一ではじめだよ。」

時間がとても静かに
そしてゆるやかに流れゆく。

「……ねぇ、
これ預かってもらえる?」

「指輪?」

「また……会えた時、
返して。
私を忘れないでほしいの。
……わがままかな?」

「いや……、
わかった。
約束するよ。
君を忘れない。」

そう言って
迷いなく
また手を差し出して
きたので
私は笑顔で手を握った。


すると旅客車両は
枕木もなく動力もなく
車道の中央線を
はみ出すくらい
めいいっぱい幅を使って
厳かに車輪を動かしだす。

「ハジメさん……
元気でね。」

「みゆきちゃんもな。」
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